「フィードバックはチームを成長させる」
マネジメントの世界では、そう信じられてきました。確かに、定期的なフィードバックは重要です。でも私は、これまでのマネージャーとしての経験の中で、あえてネガティブなフィードバックをほとんど与えずにチームを動かしてきました。
もちろん、フィードバックをしないわけではありません。ただ、メンバーを否定するような言い方や粗探しは避けてきました。その代わり、「ちゃんと見ているよ」「君のやってること、価値があるよ」というメッセージを送り続けてきたのです。
そんな自分のスタイルに確信を持てたのが、書籍『Nine Lies About Work(仕事に関する9つの嘘)』を読んだときでした。
「人は正しさではなく注目を求めている」
この本の中で、次のようなことが述べられています。
ネガティブフィードバックは、無視することに比べれば 40倍 のハイパフォーマーを生み出す可能性がある。
しかし、ポジティブなフィードバックはそのさらに 30倍 の効果がある。
つまり、ポジティブなフィードバックは「無視」と比べて 1,200倍 の効果を持つ。
この数字を見て、私の頭の中に過去のシーンが次々と浮かびました。
成果に対して「ありがとう」「助かったよ」と伝えたときの、メンバーの表情の変化。
何気ない雑談で「○○さんの資料、見やすかったよ」と言った後の、次回のアウトプットの質の向上。
私がしていたことは、「指導」ではなく、「注目」だったのだと気づきました。
ホーソン効果 – 「見られていること」がパフォーマンスを変える
『Nine Lies About Work』の主張は、心理学でも広く知られている ホーソン効果 と通じるものがあります。
ホーソン効果とは、「人は注目されていると感じるだけで、行動やパフォーマンスが変化する」という現象です。1920〜30年代、ホーソン工場で行われた労働環境の実験からこの効果は発見されました。作業環境の改善よりも、「誰かに見られている・気にかけられている」という感覚が、生産性の向上に大きく影響していたのです。
これは、現代の職場でもまったく同じ。
部下に対して「ちゃんと見てるよ」というサインを出し続けることで、人は自然と前向きになり、自律的に動き始めます。
フィードバックより「注目と承認」を
私のチームでは、ネガティブフィードバックを控えつつ、以下のような行動を意識してきました。
- メンバーの仕事に具体的な言及をして、感謝を伝える
- 進捗や成果だけでなく、プロセスにも目を向ける
- 雑談の中でちょっとした「いいね!」を積み重ねる
- 頑張りが目立たなくても、「見てるよ」と一言添える
それだけで、メンバーの行動やモチベーションは着実に変わっていきました。
「怒らない上司だからなめられる」のではなく、「ちゃんと見てくれているから、期待に応えたい」という信頼関係が自然とできていたのです。
自分のスタイルに自信を持てた
正直に言うと、私は自分のマネジメントが「甘い」のではないかと不安になることもありました。もっと指摘すべき?もっと課題を突きつけるべき?と迷ったこともあります。
でも、「注目が最高のフィードバックになる」という考え方は、私の実体験に深く合致していて、自分のやり方に自信を持たせてくれました。
おわりに
もしあなたがマネージャーで、「うまく指摘できない」「ネガティブなことを言いづらい」と悩んでいるなら、無理に指摘の言葉を探す必要はありません。
それよりも、「ちゃんと見ているよ」「あなたの努力はここに現れているよ」と、注目と承認を届けることが、ずっと強い力を持っています。
フィードバックの本質は、「正すこと」ではなく、「関心を向けること」。
そんなマネジメントが、チームの信頼と自律性を育てていくのだと、私は信じています。