1. なぜプロジェクトを断ることが難しいのか?

プロジェクトマネージャー(PM)として、時には「このプロジェクトはやるべきではない」と判断しなければならない場面があります。
しかし、現実的には プロジェクトを断るのは非常に難しい のが実情です。

その理由の一つは、多くの 意思決定者は「できない理由」を嫌う ということです。
特に経営層やクライアントは、「できない」と言われること自体をネガティブに捉えがちです。

  • 「やる方法を考えろ」
  • 「言い訳は聞きたくない」
  • 「なんとかするのがプロだろ」

こうしたプレッシャーの中で、PMは 「このままでは成功しない」と思いながらも、止めることができずにプロジェクトを進めてしまう ことがよくあります。
しかし、その結果どうなるか?

  • 無理なプロジェクトは無理を続けるほど傷が深くなる。
  • 途中で手を引けず、デスマーチに突入する。
  • プロジェクトが破綻したとき、「なぜ止めなかったのか?」と責められる。

だからこそ、「このプロジェクトはやるべきではない」と判断したときに、どうやって断るか? を考えることが重要になります。


2. プロジェクトを断るための工夫

とはいえ、単に「無理です」「やめましょう」と言っても、意思決定者は納得しません。
PMは「断り方」にも戦略が必要です。

1. 複数の案を示す(辞める一択にしない)

意思決定者が受け入れやすいように、「白か黒か」ではなく、複数の選択肢を提示する ことが大切です。

例えば、次のように提案することで、相手に選択の余地を持たせます。

  • 選択肢1: このまま進める(ただしリスクが高い)
  • 選択肢2: スコープを縮小することで実現可能にする
  • 選択肢3: 期間を延長し、適切なリソースを確保する
  • 選択肢4: 段階的リリースを検討し、初期フェーズでリスクを検証する

「やめるか、やめないか」ではなく、「どうやったら現実的に成功できるか?」という視点を持たせることが重要です。


2. 各案には合理的な説明を付加する

意思決定者を納得させるには、感情ではなく論理 で話すことが大切です。

悪い例

  • 「このプロジェクト、難しいと思います」
  • 「うまくいく気がしません」

良い例

  • 「現在のリソースでは、スケジュール内にこの機能を実装するのは厳しいです」
  • 「成功する確率を上げるためには、スコープを段階的に設定するのが現実的です」

感覚ではなく、データや事実をもとに説明すれば、説得力が増します。


3. 「〜なら、〜までならできる」というポジティブな表現を使う

意思決定者は 「できない」と言われるのを嫌う ので、
「できません」ではなく「この条件ならできます」 という言い方に変えるのが効果的です。

例えば

  • 「このままでは達成できません」 → 「この部分を調整すれば、実現可能です」
  • 「納期が短すぎて無理です」 → 「このスコープに絞れば、納期内に完成できます」

この手法は、旧日本軍の 「撤退ではなく転進」 のような言葉遊びに似た虚しさもありますが、
プロジェクトを止める「実」を取るためと割り切るのが賢明です。


3. スコープを区切る – 段階的リリースでフェードアウト

「スコープを区切る」 という手法も非常に有効です。

  • 段階的にリリースすることで、完了条件を明確にする
  • プロジェクトの危険性を周知させ、徐々に説得しやすくする
  • 途中で「これは続けるべきか?」と再評価する機会を持つ

ただし注意点もあります。
スコープを区切ると 「ここまでやったのだから、もう少し続けよう」 という心理が働きやすくなります(サンクコスト効果)。
そのため、続けるかどうかの判断を冷静に行う仕組みを作ることが重要です。


4. PMの領域を超えて考える

PMとして本当に成果を出すためには、PMという役割の枠にとどまらない視点 が求められます。

プロジェクトを止めるという判断は、本来であればPM単独で決定できることではなく、経営層や事業責任者など、より上のレイヤーの意思決定者が行うものかもしれません。
しかし、現実には、PMが「これは続けるべきではない」と強く発信しなければならない場面がある のです。

🔥 PMとして成長するためには、常に「自分がいるレイヤーより一つ、二つ上のレイヤーに作用する方法」を考えることが重要です。

  • 経営層の視点でプロジェクトの価値を考える
  • 組織全体のリソース配分の視点を持つ
  • 事業戦略の中で、このプロジェクトの位置付けを理解する

これらを意識し、上のレイヤーに対して適切に働きかけることで、PMとしての仕事の質が向上し、より大きな影響力を持つことができるようになります。


5. 最後は覚悟と勇気が必要

ここまで説明してきたように、プロジェクトを断るには 様々な工夫 が必要です。
しかし、結局のところ 最後に必要なのは「覚悟」と「勇気」 です。

PMの仕事は、ただ従うことではなく、「本当にこのプロジェクトをやるべきか?」と問い続け、必要ならば「NO」を突きつけること なのです。


6. まとめ

  • プロジェクトを断るのは、失敗ではなく「損害を防ぐ意思決定」
  • 意思決定者には「できません」ではなく「この条件なら可能です」と伝える
  • スコープを区切りながら、リスクを最小限にする方法もある
  • PMは上のレイヤーを意識し、広い視点を持つ
  • 最終的には「覚悟」と「勇気」がなければ、プロジェクトは止められない

読者への問いかけ

  • あなたは「このプロジェクトはやるべきではない」と思ったことがありますか?
  • 「断る勇気」を持つために、どのような工夫をしていますか?