1. 導入:PMとして復帰を考えるという葛藤

うつ病を経験し、PMとして復帰するかどうかを考えること自体が、大きな心理的負担でした。PMに復帰することは、少なくとも当時の私にとって、再び長時間労働に戻る可能性を意味していました。そして、うつ病を患った身体では、その生活を続ければ早晩病気が再発することが目に見えていたのです。

一方で、私はシステム開発の仕事が好きでした。プロジェクトを進め、形にし、成果が出たときの達成感は何物にも代えがたいものでした。しかし、好きな仕事を続けるためには、これまでの働き方を根本的に変える必要があることも理解していました。

そうして私は、「どうすれば長時間労働をせずにプロジェクトを成功に導けるPMになれるか?」という問いを自分に課し、その答えを探し始めたのです。


2. 長時間労働を回避するための具体的な方法

1) 残業をしない代わりに早出をする

  • 背景: 日々、体調と生活リズムのログを取ることで、規則正しい生活が心身の健康にとって重要だと気づきました。特に、規則正しい睡眠を確保することが回復にとって不可欠でした。
  • 実践:
    • 退勤時間を確定し、残業を一切しない代わりに早朝に出社することを選びました。
    • 例えば、始業時間より1時間早く出社して、自分のペースでタスクを進める時間を確保しました。
  • 効果:
    • 睡眠のリズムが整い、体調が安定しました。
    • 「限られた時間で結果を出す」という意識が自然と身につき、時間管理能力も向上しました。

2) 自分の不得意分野を周囲に任せる

  • 背景: PMとして「何でも自分でやらなければならない」と思い込んでいた時期がありました。しかし、それが大きな負担となり、精神的な疲労を増幅させる原因だったことに気づきました。
  • 実践:
    • タスクをチームメンバーに委譲する際、具体的な目的や期待を明確に伝えるようにしました。
    • 例えば、アーキテクチャ設計やスピードが求められる作業など、自分が不得意と感じる分野を得意なメンバーにお願いしました。
  • 効果:
    • チーム全体での成果が向上し、自分自身も得意分野に集中できるようになりました。
    • メンバー間での信頼関係が深まり、プロジェクト全体がスムーズに進むようになりました。

3) EBS(Evidence-Based Scheduling)を活用して自己認識を深める

  • 背景: PMとしての経験が増える中で、自分の直感的な工数見積もりが現実とは大きく異なることに気づきました。
  • 実践:
    • 過去の工数データを分析し、自分の係数(2~3倍)を算出しました。
    • スケジュールを立てる際は、直感的な工数に係数を掛けることで、現実的な計画を策定するようにしました。
  • 効果:
    • 適切なスケジュール管理が可能になり、遅延を防げるようになりました。
    • チームメンバーにも無理のない計画を提供できるようになり、ストレスが軽減しました。

4) うつ病であることをオープンにする

  • 背景: 自分の状態を隠して働くことが、かえってストレスを生むことを実感しました。
  • 実践:
    • 上司や同僚に自分の状態を率直に伝え、サポートを得られる環境を作りました。
    • 「助けを求めることは弱さではない」という考え方を受け入れることが重要でした。
  • 効果:
    • 心理的負担が軽減され、自分のペースで働ける環境が整いました。
    • チーム全体での理解と連携が深まりました。また、意外と助けてくれる人が多いことにも気付かされ、精神の安定につながりました。

5) シフトレフトを意識する

  • 背景: プロジェクト後半の混乱やデスマーチの原因を分析した結果、初期段階での品質確保が鍵であると気づきました。所謂、シフトレフトが重要だと認識しました。
  • 実践:
    • 初期段階から要件や仕様のレビューを丁寧に実施し、不確定要素を排除するように努めました。
    • 例えば、要件定義フェーズからQAエンジニアに参加してもらうことで要件の品質を向上させるようにしました。
  • 効果:
    • プロジェクト全体の安定性が向上し、余裕を持った進行が可能になりました。
    • プロジェクトの早い段階から、懸案事項に気づくことが可能になり、プロジェクトが迷走する可能性を極小化できるようになりました。

3. 長時間労働をしないPMの新しい価値観

うつ病を経験したことで、無理をしない働き方がいかに重要かを実感しました。それは、ただ健康を守るだけでなく、チーム全体の生産性やプロジェクトの成功にも大きく影響します。

無理をしないことは、クリエイティブな解決策や新しいアイデアを生むための余裕を生み出します。プロジェクト運営における「持続可能性」を重視する価値観を持つことが、今の私のスタイルです。

また、このスタイルは「次の」プロジェクトにも繋がります。人が疲弊せず、辞めにくいからです。目の前のプロジェクトで得た貴重な経験は次のプロジェクトで活きるのです。長期的な成功を考える場合、この恩恵は計り知れません。特にIT業界のように知識やノウハウが重要な分野では、経験をチームに蓄積できるかどうかが大きな差を生みます。


4. まとめ:自分を守りながら成果を出すPMを目指して

  • 長時間労働をしない選択は、自分とチームの健康を守り、プロジェクトの成功をもたらす鍵です。
  • 読者へのメッセージ:
    あなた自身の健康を第一に考え、それを基盤にしたプロジェクト運営を目指しましょう。「無理をする」「無理をしなければならない」プロジェクトは、ほとんどの場合、混乱したプロジェクトであり、その品質は顧客にとっても大きなリスクであることは重要なポイントです。

すべてのステークホルダーの心身の健康に配慮し、安定したプロジェクト運営を目指すこと。それは、PMにとっても顧客にとっても、大きなメリットとなります。