1. 手を動かせるPMのジレンマ

プロジェクトマネージャー(PM)として働く中で、何度となく「自分でやったほうが早い」と感じる場面に遭遇することがあります。特にエンジニア出身のPMであれば、コードを書けるし、システム設計もできる。技術的な課題に対して、メンバーに頼るよりも、自分が手を動かしたほうが素早く解決できることもあるでしょう。

しかし、手を動かせるPMだからこそ陥りやすい罠があります。

  • マネジメントの時間が削られ、全体の進捗やチームの動きが見えにくくなる
  • メンバーの成長機会を奪い、チームのスキル向上を妨げる
  • 「作ることで解決しようとする」思考が働き、最適な選択肢を見落としがちになる

今回の記事では、「手を動かせるPMの弱点」と、それをどう乗り越えるかについて考えていきます。


2. 手を動かしすぎることで起こる問題

マネジメントの時間が削られる

PMの仕事は、プロジェクト全体を見渡し、メンバーの状況を把握し、円滑に進行するための調整を行うことです。しかし、実装や技術的な作業に没頭してしまうと、以下のような問題が発生します。

  • プロジェクト全体の流れを把握する余裕がなくなる
  • チームの課題を事前に察知し、対処する機会を失う
  • 目の前のタスクに集中しすぎて、全体の優先順位を見誤る

チームの成長を阻害する

PMが率先して手を動かしてしまうと、メンバーの成長機会が失われます。
例えば、少し時間をかければ学べるタスクを、PMが「自分でやったほうが早い」と処理してしまうと、メンバーはその技術や知識を習得する機会を逃します。結果として、以下のような悪循環に陥ります。

  • メンバーのスキルが伸びないため、今後もPMが手を動かさざるを得なくなる
  • PMが忙しくなり、マネジメントの質が下がる
  • 最終的にプロジェクトの属人化が進み、リスクが増大する

「作ることで解決しようとしてしまう」問題

手を動かせるPMが陥りやすい落とし穴として、「作ることで解決しようとする」問題があります。
作れる能力があるからこそ、「本来なら作らずに解決できるはずの問題」まで、作る方向で解決しようとしてしまうのです。


3. 作れるがゆえに作ってしまった失敗例

過去に、ある決済システムの開発に関わったときのことです。新しく従量課金の仕組みを追加する必要があり、既存の決済システムを内部的に呼び出す形で改修を行いました。最初は問題なく運用できていましたが、時間が経つにつれてデータ量が増加し、既存の決済システムのパフォーマンスがボトルネックになり、新規に開発した部分も影響を受けるようになりました。

このとき、私は 「既存システムを壊さずに新機能を付加する」 という前提を疑いませんでした。しかし、今振り返ってみると、長期的には別の選択肢を検討すべきだったと感じます。

  • 既存決済システムとは切り離したアーキテクチャにする
  • システム全体のリファクタリングを行う
  • 外部の決済サービスを活用する

このような判断をしてしまった背景には、「自分が作れるから、作って解決しようとしてしまった」 という思考がありました。もし、この開発を専門のエンジニアに任せていたら、違う選択肢が出ていたかもしれません。


4. どうすれば良かったのか?

「手を動かさないPMになる」のではなく、「戦略的に手を動かすPMになる」 ことが求められます。

タスクの切り分けを意識する

  • 「この作業、本当に自分がやるべきか?」と自問する
  • メンバーの成長につながるタスクは、少し時間がかかっても任せる
  • 短期的な効率より、長期的なチームの成長を優先する

「作ることで解決しようとしていないか?」を問い直す

  • 「もし自分に技術がなかったら?」という思考実験を行う
  • ゼロベースで考え、作る以外の解決策を探る
  • 「作らない選択肢があるか?」を意識することで、提案の幅を広げる

5. PMとして生き残るために

PMの仕事は、プロジェクトを成功に導くことですが、そのためには「作る」以外の方法も考慮することが大切です。手を動かせるPMが成功するためには、「作れるから作る」という思考から、「何が最適か?」という視点にシフトすることが求められます。

また、チームの成長を促し、自分がすべてを担うのではなく、メンバーに権限を委譲することも重要です。

  • 「自分しかできない」状態を作らない
  • チームメンバーに権限を委譲し、成長を促す
  • 「作らない」選択肢を持つことで、提案の幅を広げる
  • PMの役割を定期的に見直し、バランスを取る

6. まとめ

手を動かせるPMであることは強みですが、それが必ずしも最適解ではありません。マネジメントの時間を削ってしまったり、メンバーの成長を阻害したりするリスクがあります。また、作れるがゆえに「作ることで解決しようとしてしまう」問題もあります。

このような罠を回避するためには、タスクの切り分けを意識し、「作らない選択肢を考える」ことが重要です。
「もし自分に技術がなかったら?」と問いかけながら、最適な解決策を考える習慣をつけることで、PMとしての判断力は磨かれます。そして、PMの役割とは、単に自分が動くことではなく、チームを最大限に活かし、プロジェクトを成功へ導くこと なのです。


読者への問いかけ

  • あなたはPMとして、どこまで手を動かしていますか?
  • 「作ることで解決しようとしてしまった経験」はありますか?
  • もし「自分が技術を持っていなかったら?」と考えたとき、どんな選択肢が増えそうでしょうか?