ピープルマネージャを評価する指標というものは様々なものを考えることができます。
- 部門目標を高いレベルで達成
- ビジネス価値(利益)の創造
- 高い顧客満足度
- カリスマ性、人気
- 他部門との協働、調整能力
- 採用、育成能力
- 良好なチーム運営
- etc...
しかし、私はピープルマネージャを評価する最大の指標は離職率だと思っています。いかに、そのピープルマネージャのもとで働いているメンバーが組織を辞めないか、長く働いてくれるか、それが一番重要であると考えています。
なぜ離職率が最重要なのか?
なぜ離職率が最重要なのか?
それは、人の採用、教育には非常に高いコストがかかり、そして、あらゆる人間は交換可能ではないからです。
人が一人辞める時、失われるものをリストアップしてみましょう。
- 採用コスト
- 教育、業務習熟のコスト
- ノウハウ、知見
- (その人の)人間関係
- (その人が生み出す)利益、顧客満足、部門目標達成、チーム
- (その人が将来的に生み出すかもしれなかった)ビジネス価値
- (組織に残った人達の)モチベーション
- etc...
この価値を金額換算すると相当な額になります。人が辞めるという事象は、組織にとってかなりインパクトが強いイベントなのです。それこそ、高い部門目標の達成や利益の確保ぐらいでは賄えないぐらいの損失にもなりえます。
目標の達成や利益というのは目立ちますし、測りやすいので評価されやすいのですが、そのマネージャの預かる部門の離職率が高いならその価値はほぼないに等しくなります。なぜかというと、人が辞めなければ、効果は拡大再生産し続けるからです。
例えば、教育、育成に優れたマネージャがいたとします。そして、このマネージャの部門の離職率が低いとします。このマネージャ個人の利益に対する貢献はそれほど大きくないかもしれません。しかし、このマネージャは時間をかけて、様々なタイプの組織の次世代を担う人物を育てていきます。その中には、高い利益貢献をする者もいるでしょうし、高い顧客満足度を提供する者も現れる、同じように教育に優れた者も育つでしょう。そうすれば、全体としての組織への貢献は相当大きなものになりますし、さらにその次の世代へと組織の強化は続いていきます。
離職率が高いマネージャは、どんなにその瞬間が優秀でもそこで頭打ちになります。
そして、見落としがちなのですが、残念ながら自組織を辞めてしまった優秀なメンバーは他組織の戦力になってしまいます。競合を意識して仕事をされる方は多いと思いますが、メンバーが自組織を辞めるということが、競合に与することにつながりかねないというリスクまで考慮している人は少ないです。
採用というのは、優秀な人を競合他社と奪い合うゲームの側面も持っていることを忘れないでください。
離職を考慮していない計画は絵空事
離職のインパクトが想像以上に大きいことを理解いただけたかと思います。さて、そうなると、組織内で行われる様々な施策の中で、離職のリスクを考慮していないものは重要な現実のピースが外れている。絵空事であることがわかるかと思います。
自組織の利益が今後も右肩あがりで伸びていく、というと楽観的だと評する方は多いと思いますが、自組織の計画が離職リスクを考慮していないことに関して楽観的だと評する方はほぼいません。強気で、リスクの高いプロジェクトに挑み、辛くも成し遂げたチームの話は美談にさえなります。しかし、それはその瞬間だけよければよいエンターテイメントの世界では良いですが、現実の組織運営においては致命的な傷を負うことになります。
人が辞めるリスクを最小化し、組織内の有形無形の財産を最大化する。そして、残念ながら離職が発生してしまった時に備えて採用計画を練る。各施策は離職が発生するような無理な進行を避ける。そのような考え、実践を伴う組織やマネージャの離職率は非常に低くなり、安定して組織を発展させることができます。
穴の空いたバケツにどんなに水(利益)を注いでも無駄です。離職率の低いマネージャは穴の空いてないバケツです。ですので、私はピープルマネージャにとっての最重要な指標は離職率であると考えるのです。